- 2023.07.12 Wednesday -
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聖書の緑風『人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる』
神のことばである聖書に教えられたことや感じたことを綴っていきます。 聖書には緑陰を吹きぬける爽風のように、いのちと慰めと癒し、励ましと赦しと平安が満ち満ちているからです。
ふう子とゆり子の物語 第三話 観覧車に乗る その2ママとお出かけ ふう子とふう子ママ その出来事を、ふう子はママに言いませんでした。家に帰る途中でそこまでは決心したのです。でも、何日たってもゆり子に会いたくない気持は消えませんでした。 土曜日が来て、ママがおやつバッグを用意したとき、話し始めたのでした。 「そんなことがあったの。悲しかったでしょう。心が痛かったわね。でも、今日まで我慢できて、えらかったわ。話してくれて、ママはうれしいわ」 ふう子ママはそう言うとふう子の顔をのぞき込み、それからにこっと笑いました。 「……」 ふっと、心が軽くなり、明るい風に包まれたような気がしました。 「行きたくないのは当然よ。ママだったら迷わず行かない!そうだわ、今日はママとお出かけしましょ。このおやつバッグ持って、海の公園に行きましょう。ふう子の好きな観覧車に乗りましょう!」 ふう子ママは楽しそうに言うと、ふう子の肩をぽんぽんと叩き、頭をぐるぐるっと撫でました。 「支度してくるわ」 ママは風のように行ってしまいました。 ふう子はぼんやりしています。心は軽くなったけど、ママのようにうきうきとまではいきません。 「ママって、変だわ。ついていけないって感じ…」 相変わらずゆり子の家に行く気はしないのですが、しょんぼりとベッドに横になっているゆり子が目の前に見えるようでした。
ゆり子もゆり子ママもじっと耳を澄ましています。玄関のチャイムが鳴るのを待っているのです。 「ママは、ふう子ちゃんは来ないと思う」 「そうかしら、そうかもしれない…でも、でも、ふう子ちゃんのことだから」 「いいえ、いくら優しいふう子ちゃんでも、来られないでしょうね。帰れっていったのはあなたなのよ」 「あの時は、気持が押さえきれなかったの」 「それでも、言っていいことと悪いことがあります」 そうです、二人はこの一週間ずっと同じことを言い合っているのです。 「ふう子ちゃんが来なかったらどうするの」 「……」 「あなたにできることがひとつだけあるわ」 「謝まることでしょう」 「そうです。それだけよ。そうだわ、これからふう子ちゃんのお家に行きましょう」 「えっ、ふう子ちゃんのお家に?」 「そう、それしかないでしょう」 ママは支度をしますといって、風のように行ってしまいました。 「ママは厳しすぎる。いつものママじゃないわ。とっても変だわ。でも、ママは正しい…」 ふう子ちゃんは今ごろどうしているだろう、他のお友だちと楽しく遊んでいるかも知れない…そう思うと、心に冷たい風が吹いてきて泣きたくなってしまいました。 大観覧車
「ふう子ちゃん、うれしくないの。お天気もいいし、観覧車からの眺めはすばらしいわよ」ママの声はいつもの二倍くらい明るいのです。 変だわ今日のママ、ついていけないわ。 線路脇の小道を歩いていくと、駅の踏切の音が聞こえました。 「電車だわ、ふう子、走って。これに乗りましょう」 ママはぐいっとふう子の手をつかみました。 「あっ!」 「あっ!」 「ゆり子ちゃんよ、ママ!」 「ふう子ちゃーん」ゆり子の声です。 踏切の向こう側から車いすのゆり子がやってきます。 ふう子はママの手を振り切って飛び跳ねながら両手を高く上げて合図しました。 踏切のこちら側と向こう側の間に電車が入ってきて停車し、また走り出しました。 ふう子とママは乗ったかですって。もちろん乗りませんよ。 ふう子とゆり子にとって、踏切が上がるのがどんなに長かったでしょう。 ふう子は踏切を飛び越えて、車いすのそばに駆けよりました。 「ふう子ちゃん、ごめんなさい」ゆり子待っていたように言いました。 「ううん、もう、いいの。ウフフフ」ふう子は笑いました。 「ウフフフ」ゆり子は小さく笑いました。 「アハハハハ」ふう子がもっと大きな声で笑いました。 「アハハハハ」ゆり子も同じくらい大きな声で笑いました。 笑って、笑って、笑いごろげて、二人の体が大きく大きく、ゆさゆさと揺れました。風ができました。大きな大きな風になりました。 「うわっ、海が見える」 「ほら、船も見えるわ」 二人を乗せた観覧車がゆっくりと上昇しています。二人はピンク色の車に乗ったのです。 「ママが小さい!」 「ママが小さい!」 「真っ青な空よ」 「真っ青な海だわ」 「ほら、飛行機がきたわ」 「うわっ、大きいっ。飛行機のお腹が見えた」 ゆり子の家へ
「先日はまことに申し訳ございませんでした。お電話ですませてしまって。お伺いしたかったのですが、ふう子ちゃんやゆり子のことを考えると、どうしたものかと迷いました」 「あれから、ふう子には何も言いませんでした。それとなく様子を見ていましたが、あの子、今日になって始めて話したのです」 「ふう子ちゃんは大人ですね。えらいわ。ゆり子ときたら、お恥ずかしい」 「ゆり子ちゃんの強さは大切ですわ。これからきっとお役に立つでしょう」 「ゆり子は謝ることができました。これは大きな成長です」 「そうですね。ふう子もゆるすことができました。大きな成長です」 ふう子ママとゆり子ママのお話しはつきないようです。 ふう子はそっとママの洋服を引っ張りました。 「ごめんなさい。お引き留めして。お出かけのようでしたね」ふう子ママはあわてて言いました。 「ええ、お宅へ」ゆり子ママが言いました。 「まあ、私たちはお宅へ行くところだったのです。そうね、ふう子ちゃん」 「……」とっさにふう子は返事ができません。 ママったら、全く変だわ。ついていけないわ。 でも、ママのアイデアが一番。 「今日はね、サンドイッチがあるの、それと、バナナケーキ」 ふう子はバスケットを持ち上げてみせました。 「ねえ、ふう子ちゃん、さっきの観覧車のお話しましょうよ」 「楽しかったわねー」 二人はまたアハハハハと笑いころげました。 「そうそう、お二人にお話ししなきゃ。今日、主人が病院に行って、新しいお薬の説明を聞いてきます。次の診察の時、いただけるかも知れません」 ゆり子ママは目を輝かせて言いました。 「わたしに椅子を押させて。ゆり子ちゃん、いいわね」 ふう子はハンドルを握ると力を込めて、そっとそっと押し始めました。(おわり)
Category : 創作童話
ふう子とゆり子の物語 第三話 観覧車に乗る その1 会いたくない ふう子は土曜日が近づいてきてもうれしい気持になれません。それどころか暗く狭いところへ沈んでいくような気がします。 会いたくないのです、ゆり子に。こんなことは初めてでした。 「ママ、わたし、もうゆり子ちゃんのお家にはいかないわ」 「どうしたの、とつぜんに」ふう子ママは驚いてしまいました。 「行きたくないの、会いたくないの…」ふう子は悲しい顔で言いました。 「まあ…」ゆり子の顔を見たママはそれ以上言葉が出ませんでした。 ふう子の目からぽろっと大粒の涙がこぼれました。 ゆり子が病気になって学校へ行けなくなってからというもの、ふう子はほとんど毎週欠かさずに土曜日が来るとゆり子の家に行っていたのです。 理由は、ゆり子が好きだったからです。大好きなゆり子が重い病気になったことが悲しくてたまりませんでした。自由に外へ出られないゆり子が気の毒でなりませんでした。 なんとかしてゆり子ちゃんを助けて上げたい。 ふう子ははち切れそうな愛を抱えて、ゆり子を訪ねました。ゆり子はうれしくてうれしくてたまりません。ゆり子ママもありがたくてありがたくてお礼の言いようがないほどでした。 ふう子とゆり子の間には熱い友情があるのです。健康だとか病気だとかは全く関係がありませんでした。ふう子はゆり子が病気になるずっと前から大好きでしたし、ゆり子のほうももちろんそうでした。 二人の性格をみると、ふう子はわりにおとなしく、ゆり子は好き嫌いがはっきりして、活発でした。いつでも先に言ったりやり出すのはゆり子で、ふう子はついていくほうでした。でも、ふう子がお姉さんで、ゆり子は甘えん坊の妹のようでした。 病気になったゆり子は、気持の上がり下がりが大きくなりました。だんだんと手や足や体が不自由になるにつれて、ますますそうなっていきました。
先週の土曜日のことでした。ふう子はいつものようにお昼ご飯を済ませると、ママの作ってくれたおやつバッグを持って出かけていきました。おやつはレモンクッキーです。 その日は前からの約束で、近ごろ二人が夢中になっているアイロンビーズをすることになっていました。材料はゆり子ママが準備してくれます。プラスチックでできた、ちょうどストローを輪切りにしたようなビーズを型の上に並べていきます。型は鳥や花やちょうちょなど様々な種類があり、ビーズにはあらゆる色があります。思い思いに配色をして並べ終わったら最後に熱いアイロンを当て、型から外すとでき上がりです。 二人とも夢中になってビーズを並べていきました。初めはおしゃべりをしていましたが、だんだん熱が入ってきて、話もしなくなりました。 ビーズを型の上に並べるだけの簡単なことなのですが、くり返していると疲れてきます。時々並べたものが転がってやり直したり、配色を考えていると気持も疲れてきます。 とつぜん、がさっと音がして、ビーズが飛び散りました。 「アイロンビーズなんか大嫌い!」ゆり子が高い声で叫びました。 ゆり子は型をひっくり返し、ビーズの入った箱を放り投げたのです。 ふう子はこんなに驚いたことはありませんでした。 ゆり子は金切り声で泣き出しました。 「ふう子ちゃんのいじわる!こまかいことがわたしにはできないってこと知ってるでしょう。早くビーズをつまめないし、きれいに並べられない!。わたしが一つ作るうちにあなたは三つも作ったわ。もう、いや!」 「……」 ゆり子ママが飛び込んできました。 「どうしたの?これはいったい、なあに」 部屋中に散らばったビーズをみて、ゆり子ママもびっくり仰天です。 「ママもひどいわ!わたしにはできないのよ。それなのに…」 「いいえ、いつも上手に作っているわ。楽しいから今度もしたいって言ったのはあなたですよっ。ゆり子」 ゆり子ママはきつい口調で言いました。 「ふう子ちゃんに失礼でしょう。せっかく遊びに来てくださっているのよ」 「そうね、わたしをかわいそうに思って、来てくれているのね。もういいわ、ふう子ちゃん、帰って!もう来ないで!ほかの人と遊んで」 「なんてことを…ゆり子、わがままがすぎます。謝りなさい!」 ゆり子ママの声が大きくなりました。 涙があふれ出ました。 帰ろう、お家に帰りたい。 泣き顔のままふう子は表に飛び出しました。 ゆり子ママのおろおろ声が聞こえました。もっともっと大きなゆり子の泣き声も聞こえました。(つづく)
Category : 創作童話
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