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みんなのブログポータル JUGEM

聖書の緑風

『人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる』
神のことばである聖書に教えられたことや感じたことを綴っていきます。
聖書には緑陰を吹きぬける爽風のように、いのちと慰めと癒し、励ましと赦しと平安が満ち満ちているからです。
  • 2023.07.12 Wednesday -

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  • 2011.02.22 Tuesday - 10:19

ふう子とゆり子の物語 一人で行きたい その2(おわり)

菜の花畑で


 ゆり子はベッドの上でじっと考え込んでいました。行ってみたいところが頭から離れません。

菜の花畑、海岸、空港とくり返しくり返し言ってみました。すると気持が高まって体中が熱くなりました。

「わたし、一人で行ってみる。行けそうだわ。行けるわ。一人がいいの。一人でいきたいの」

 叫ぶように言うと、起きあがって着替えを始めました。真っ白な半コートの下に同じ白の綿シャツを着込み、ピンクの綿パンをはきました。パパが海外出張で買ってきてくれたポシェットを提げました。色はもちろんピンク。まだ一度も使っていないのです。そっと部屋を出ました。

「あっ、ママだわ。見つからないようにしなきゃ」

 ゆり子は大急ぎで外へ出るとドアーを閉めました。大きな音がしました。

「見つかるところだったわ、あぶない、あぶない」

ゆり子が玄関の外で靴の紐を結んでいると、ドアーがいきおいよく開きました。

「痛い!ママったら、ひどいわ」ゆり子はドアーにかかとをぶつけてしまいました。

「あーら。いいお天気。どれ、支度してお買い物に行きましょう。今日はゆり子ちゃんの好きないちごのババロアを作りましょう」

ゆり子ママは目の前にいるゆり子がまるで見えないように、こんどはばたんとドアーを閉めて家の中へ入ってしまいました。

 

 特急列車に乗っても二時間以上かかる菜の花畑の真ん中を、ゆり子はさっさと歩いています。

「わあ、きれい!いいにおい!優しい風!空が大きいわ!」

 ふと、おおぜいの子どもたちがいるのに気がつきました。なんと、ゆり子と、ふう子のクラスの友だちです。

「いやよ、会いたくない!」

 ゆり子は大急ぎで走り出しました。みんなから離れたかったのです。

「あっ!」

 ゆり子の足元がぐらぐら揺れて、そのまま倒れてしまいました。

「痛いっ!」大声で叫びました。

 ゆり子のすぐそばをクラスのみんなが歩いて行きます。先生の後ろについてどんどん歩いていきます。

「たすけてー」ゆり子はまた叫びました。

 でも、だれも気がつきません。声も聞こえないようです。

 ふう子がみえました。

「ふう子ちゃんだ、ふう子ちゃん、起こして、わたし一人ではできないの」

 ふう子はお友だちと笑いながら近づいてくると、ゆり子の手や足を踏んづけてそのまま通り過ぎていきました。

 クラスのみんなはそのまま小さくなってしまいました。

ゆり子はたった一人、広い広い菜の花畑の中に取り残されてしまいました。

 強い風が吹いてきました。青い空に灰色の大きな雲が流れてきました。

「こわいー、みんなの意地悪っ!ふう子ちゃんてひどい人―」

 

海辺で


 ゆり子は砂浜を走っていました。春の海は穏やかです。薄曇りの空から柔らかな日差しが降り注いで、波がキラキラ光っています。おおぜいの人たちが波打ち際で遊んでいます。子どもたちの笑い声や叫び声が切れ目なく聞こえてきます。

「わあ、いい気持ち―海はいいなあー風のにおいも好きだわ」

 ゆり子は両手を広げて深呼吸しました。胸一杯に潮のにおいが広がっていきます。

「あら、あんなところにパパとママとお兄ちゃんがいるわ。おばあちゃんもいるわ。やだわ。どうしてみんないるの、わたし、一人がいいの」

そのとき、急に大きな波がきて、ゆり子の足元にからみつきました。波しぶきがかかって膝までびしょぬれです。

「あっ!」

 ゆり子の体はバランスをなくしてぬれた砂の上にしりもちをついてしまいました。

「痛い、助けて、パパー、ママー、お兄ちゃーん」

 みんなは波を避けてゆり子のそばを駆け抜けていきました。

「待ってーわたしよー、ゆり子よーどうして行っちゃうのー ひどいわ、ひどいわ」

 すぐ近くからパパとママとお兄ちゃん、おばあちゃんの大笑いが聞こえました。

「もう少しで波をかぶるところだったわ。アハハハ」

「波って早いんだね、負けるところだった、アッハハハ」

 ゆり子は寂しくて悲しくて、ぽろぽろ涙を流して泣きました。

「もう空港へは行きたくない…一人では行きたくない」

 ゆり子は大きな声でわあわあと泣きました。

 


ゆり子、空港へ行く


 ゆり子は空港にいます。大きなガラス過しに、着陸体勢に入った飛行機が滑走路に入ってくるのが見えます。一機が降りたつと、数分もしないうちに次の飛行機が降りてきます。上を見上げると、上空にはすでに次の機も見えます。

ゆり子はつまらなそうな顔をしています。来たかった空港にいるのに、見たかった着陸が目の前にあるのに、外を見ようともしないでじっとうつむいています。たくさんの人の声がざわざあと波の音のように響いてきます。

「あら、ゆり子ちゃん、こんなところにいたの」

 明るい声が弾けました。ふう子です。そばにはふう子ママもいます。

「ゆり子ちゃん、大好きな空港に来られてよかったわね」ふう子ママがにこにこと笑いかけました。

「ゆり子ママはどちら?」

「こんにちは。思いがけないところでお会いしましたね」

 ゆり子ママがジュースのカップを持って現れました。

「パパの出張を見送りにきましたの。ゆり子が空港に行きたい、行きたいってずっと言ってましたので。主人はもうゲートに入りました」

「まあ、そうですか。私たちはお友だちを見送りにきました。もう帰るところです」

 ママたちがお話しをしています。

「ねえ、ママ、いっしょに帰りましょうよ。できたら飛行機が飛び立つのを見たいの。ゆり子ちゃんもそうよね」

ふう子はゆり子のそばにぴたっと坐ると、手を取りました。とってもあたたかい手でした。ゆり子の心がふわっと軽くなり、雲が晴れて光が差してくるようでした。

「さあ、ゆり子ちゃん、行きましょう。ママたちはエスカレーター。私たちは    階段をかけ上るから。競争よ!」ふう子がはしゃいだ声で叫びました。

 


こんどこそ


 ゆり子ママがいちごのババロアと紅茶を持って入ってきました。

「ゆり子ちゃん、自慢じゃないけど、このババロア、とってもよくできたと思うの」

「ママ、お話し聞いて」

「なあに」

「わたし、行きたいところがあるって言ったでしょう。覚えてる」

「ええ、覚えてますよ」

一人で行きたいって叫んだわね、ママは、それは言いませんでした。

「行きたいの。ますます行きたいの」

「そう…、でも…」

 ママは困ってしまいました。なんと答えたらいいのでしょう。

「ママ、でもね、一人で行くのはやめにしたわ」

「えっ、どうして?」

「ママとふう子ちゃんとふう子ママと、お兄ちゃんと、できればパパとおばちゃんもいっしょに」

「まあ、おおぜいね」

「ママ、一人って寂しいことね。病気がなおっても、みんなといっしょに行くわ」

 ママはほっとしました。でもまたちょっと心配です。一人でも生きる強い人になってもらいたいとも思うのです。

 

 電話が鳴って、ママは飛んでいきました。

「パパですか。お医者さまからですか。ええ、ええ、お薬のこと、もう少しで許可になりそうですって。ほんとうなのですね」

そう、きっと、こんどこそ、だいじょうぶね。わたし、信じるわ。そのときまで待ってるわ。

 この春は、みんなで菜の花畑や海岸や空港へ行きたいわ。
 みんなで。

 ゆり子はババロアを大きくすくって食べはじめました。(おわり)

 

 

 

 

 

 
Category : 創作童話

  • 2011.02.13 Sunday - 09:12

ふう子とゆり子の物語 第二話 一人で行きたい その1             

ゆり子のお薬

 
 ゆり子のお医者さまから、新しいお薬ができたと知らせがありました。ゆり子ママもパパも、親友のふう子もふう子ママもどんなにうれしかったでしょう。みんな、自分のこと以上にうれしかったのです。だって、ゆり子を愛しているからです。

 「わたし、歩けるようになるのね。学校へも行けるのね。ふう子ちゃんと外で遊べるのね」ゆり子は今すぐにでもそうなるように思っています。

 「うん、きっとそうなるよ」パパは大きくうなずきました。

 「ゆり子ちゃん、もうすぐ楽しい日が来るわ」ママも力を込めて言いました。

 お薬を取りに来てくださいって、病院から知らせがくるのを、みんな今日か、今日かと待っていました。

 ふう子も気になってしかたがありません。ふう子ママも落ちつきません。

 「ママ、まだお薬が来ないんですって」

「どうなってるのかしら、あれからずいぶん日が経ってるでしょう」

 

ふう子がいつものように、土曜日の午後にゆり子の家に遊びに行ったときでした。ゆり子もゆり子ママもしょんぼりしているのです。

「お医者さまのうそつき!大人ってみんなうそつきだわ!大嫌い、みんな、みんな、大嫌い!」ふう子の顔をみると、ゆり子は大声でわめき、わあっと泣きだしました。

「ふう子ちゃん、ごめんなさいね。お薬のことなの。ゆり子が怒るのも当たり前だわ。わたしも悲しくて、悔しくてたまらないの」ゆり子ママも涙声です。


 お医者さんは言ったそうです。

「薬はできたのだけど、使えるようになるためにはお役所の許可が必要で、それに時間がかかっているのです。お役所では、ほんとうに安全で効き目があるかどうか、もう一度くわしく検査をすることになっています。だから、待っていてください」

ゆり子にはそれが納得できないのです。待てないのです。

「くわしく検査して、もしだめだったらどうなるの。お薬はいただけないでしょう。そしたら、わたしの病気はこのまま治らないのよ」

ふう子は困ってしまいました。なんと言ったらいいのでしょう。

ほんとうは言いたいのです。

ゆり子ちゃん、もう少し待ってみましょうよ。お薬はきっと検査に合格するわ。だから、だから、希望を持って待ってみましょうよ。

でも、言えないのです。今日のゆり子は荒れています。どんなことでも悪いように考えて、気持がどんどん暗いほうへ沈んでいくようです。

ふう子はもうひとつ言いたいのです。

わたし、お祈りしてるわ。ママもよ。神さまはいちばんよいことをくださるから、静かに待っていましょうよ。


これも言えませんでした。

 
一人で行きたい


 涙をふいてしばらくすると、ゆり子はいつもの声に戻って言いました。

「私ね、病気が治ったら行きたいところがあるの。遠足で行った広い菜の花畑を歩きたい。それから、前に家族みんなで行ったあの海に行きたいの。はだしで砂浜を走りたいわ。もうひとつはね、ゆり子、よくばりかな、空港へ行きたい!。飛行機が飛び立つところ、着陸するところを見たい。ほんとうは乗りたいのだけど。うふふ…」最後は笑い声に変わりました。

「そう、いいわね。近いうちにみんなで行きましょうよ。春だものね」

ほっとしたのかママも元気になり、笑顔で言いました。


 ところが、ゆり子はきつい顔をして言うのです。

「わたし、一人で行きたいの。一人でしてみたいの。いつも、いつも、みんなのお世話になって…、ばかりでしょう。だから、自分一人でしたいの」

「そう…一人ねえ…」ゆり子ママは顔をしかめて力のない返事をしました。

ふう子はちょっと寂しい気持になりました。

 

「ママ、ゆり子ちゃんったら、自分一人で、たった一人で行きたいところがあるんですって」

家に帰ると、ふう子はママに今日のことをお話ししました。

「そんなことをゆり子ちゃんは考えてるのね。そう、りっぱだわ。ゆり子ちゃんは病気と戦って、ふう子のできない勉強をしてるわ」

「ふーん。わたしは一人ではどこにも行きたくない。こわいもの。みんなといっしょがいいわ」

「そうね、それも大切なこと」

「ママの言ってること、わからないー」

 ふう子ママは首をすくめ、目を細くして笑いました。(つづく)

 
Category : 創作童話

  • 2011.02.03 Thursday - 08:50

ふう子とゆり子の物語 第一話 消えた雨靴 その2

 

(だいぶ日が経ってしまいましたが、前回のつづきです)

二人で外へ


 一週間いやな気分でした。ママに、もう行きたくないと言ってしまいました。

しかも、またまた土曜日は雨なのです。

「こんどはきっとレインコートがなくなるわ。そんな気がするの」

ママは困ったようすでしたが、ちょっときびしい顔をして言いました。

「ふう子、ゆり子ちゃんが好きよね。靴や傘やコートとどっちが大事なのかしら…」

ふう子はじっと考えました。靴…、傘…、コート…、病気のゆり子が、わるがわる目の前に浮かびました。

「わたし、行ってきます。今日のおやつは?アップルパイでしょ?」

「当たりっ!あなたたちがいちばんすきなものよ」

「わーい、うれしいー、ありがとう」

 

 ふう子は玄関で脱いだコートが気になりました。いっそ持ってゆり子のお部屋に行きたいくらいでした。でも、びしょびしょですから、そうもいきません。

ふう子ママがハンガーにかけるのを、振り返ってじっと見てしまいました。

「今日はちゃんと気をつけますから。ごめんなさい…」ゆり子ママがすまなそうに言いました。

廊下の奥から大きな声がしました。ゆり子ちゃんです。

「ふう子ちゃーん、早く、早く、わたしを見て!」

いつもと違ってとっても元気な声がします。ゆり子ちゃん?と不思議なくらいに。急いでドアーを開けました!

 

 ゆり子ちゃんがあのなくなった雨靴と傘と玄関にあるはずのレインコートを着て、ニコニコと歩いてくるのです。

「あっ、あのーっ、それって!?」

うそのようです。ゆり子だけど、ゆり子でないようにも思えました。

それに……レインコートはぬれていません。

「わたし、すっかり元気になったの。さあ、雨だけど、お散歩に行きましょう」

ゆり子はふう子の手をしっかり握りました。動かないはずの左手ものばして

力を込めるのです。


 二人は手をつないで外へ出て行きました。もちろん片方の手は傘の柄を握っています。あらら、ふう子もゆり子とまったく同じ靴と、傘と、コート姿です。

二人は、以前によく行った公園や図書館や、それに学校に行き、駅前のお花屋さんにも寄りました。ずっとしゃべり続け、笑いあいました。

長い時間が経ったようで、ふう子は心配になりました。

「ねえ、ゆり子ちゃん、疲れない?」

「ぜーんぜん、楽しかったわ。でも、そろそろ帰りましょうか」

突然、泣き声が聞こえました。

 

 

犯人がいた

 
  「ごめんなさい、私が犯人です、私があなたの雨靴や傘を隠したのです、ゆるしてください、ゆるしてー」

ゆり子のお部屋の、ゆり子のベッドのそばに、ゆり子ママが靴と傘を抱えたまま泣き伏しています。ベッドには、ゆり子が青白い顔で横になっています。

いつもの、病気のゆり子です。元気になったゆり子はどこへ行ったのでしょう。あれはだれだったのでしょう。

「ふう子ちゃん、ゆり子、お母さんをゆるしてー」

「お母さん、どうしてそんなことをしたの…」

「あなたに、はかせたくて、夢中で隠してしまったの。傘も…。

気持ちを抑えきれなかったの、ごめんなさいー」

「お母さんにそんなことをさせたのは、わたしなのね。ふう子ちゃん、お母さんをゆるして」


 ふう子は目の前がボーとして、なにも考えられません。いいえ、一つのことだけしか考えられません。ふう子はたずねてみました。

「ゆり子ちゃん、あなた、ずっとここにいたの?」

「ゆり子がどこへいけるでしょう。二人ともずっとここでしたよ」ゆり子ママがとんがった声で言いました。

「そうよ。でも、そういえば、外を歩いた夢を見たわ。あなたといっしょに。楽しかったわ」

「私はほんとうにゆり子ちゃんとお出かけしたのよ」ふう子は首を振っていいました。

「そんなことはありません」ゆり子ママがまたキッして叫びました。

 


ふう子ママのプレゼント


 玄関のチャイムが鳴って、ふう子ママ飛び込んできました。

 「まあ、ゆり子ママもこちらでしたか。私ね、じっと考えていたら、全部わかったのです。雨靴と傘のことです」

 「申し訳ございません、こんな恥ずかしいことをしてしまって」

 ゆり子ママは床に頭をこすりつけるようにしてお詫びをしました。

 「ゆり子ママ、あなたのお気持ちとってもよくわかります。一度ゆっくりお話ししたいと思っていましたよ」

 ふう子ママは優しい声で言いました。

ふう子はお母さんが大きな袋を持っているのに気がつきました。

 「それ、なあに」

 「さあ、なんでしょう。当ててみて」

 「わかったわ、ゆり子ちゃんにあげる雨靴と傘と、コートでしょう」

 「えっ、うちのゆり子にですか」

 「わたしに?だって、だって、わたし、歩けないのに…」

 「歩けますよ、さっき歩いていたでしょう」

 ふう子ママがしっかりした声で言いました。

「えっ、お母さん、どうして知ってるの、見てたの?」

 「見てましたよ。そう、神さまが見せてくださったと言ったほうがいいでしょう。お祈りをしていたら、お花屋さんの前にいるあなたたちの姿が浮かんできたの。神さまが、いまにこうなるって教えてくださったと信じたの。

ゆり子ちゃん、あなた、きっと、きっと、よくなりますよ。

その時は、これ使ってくださいね」

 

 玄関の方から電話の音が聞こえてきました。ゆり子ママが急いで出ていきました。まもなく、びっくりするような声が聞こえました。

 「パパ!なんですって。すばらしいお薬ができたんですって。ほんとうですか、ほんとうですか…」

 ゆり子ママの声は涙で途切れてしまいました。

 ふう子はゆり子を抱きしめました。

その二人を、ふう子ママが大きく両腕を広げて、ぎゅっと抱きしめました。

                            おわり

 
ふう子とゆり子の物語は、あと2篇あります。


 

 

 

 

 

Category : 創作童話

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