- 2023.07.12 Wednesday -
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聖書の緑風『人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる』
神のことばである聖書に教えられたことや感じたことを綴っていきます。 聖書には緑陰を吹きぬける爽風のように、いのちと慰めと癒し、励ましと赦しと平安が満ち満ちているからです。
ふう子とゆり子の物語 第一話 消えた雨靴 その1ゆり子のこと ふう子は土曜日になると、きまってゆり子の家に行きます。ゆり子が病気になって学校へ来られなくなってからずっとそうしています。 「ゆり子さんはとても難しい病気になりました。いまのところだれにも治すことができません。手術もできません、お薬もありません」
「ゆり子ちゃんとママによろしくって伝えてね」 ふう子ママはそのたびにお菓子や果物を持たせてくれました。
先生から連絡を頼まれることもなくなりました。でも、ふう子は土曜日にはかならず会いに行きました。 ゆり子に会いに その日は朝から大雨が降っていました。 「おばあちゃんからいただいた新しい雨靴をはきなさいね」 「もう、はいてもいいの、うれしいっ!」 色は大好きなマリンブルーです。傘は新しくはないけれど、これもマリンブルー、レインコートはパステルピンクです。ゆり子に会えるのと、新しい雨靴をはいたのとで、いつもよりずっといい気分です。そして、今日のおみやげはお母さんの作ったスイートポテト!
「まあ、すてきな雨靴ね、かわいいわ、とってもよく似合うわよ」 ゆり子ママがほめてくれました。でも、それからちょっと目を伏せると、 「ゆり子にもはかせて上げたいわ…」と沈んだ声で言いました。 「……」 「ごめんなさい、気にしないでね。さあ、お部屋に行ってちょうだい」 ゆり子ママはいつもの笑顔に戻っていました。 ゆり子はパジャマ姿でした。いつもはきとんと洋服を来ているのに、どうしたのでしょう。元気がないように見えました。 「ゆり子ちゃん、大丈夫なの」 「左手が思うように動かないの…」 ゆり子はそう言うと、右手でパジャマの袖を引っ張って左手を隠してしまいました。 「きっと、もうすぐいいお薬ができるわよ。わたし、毎日お祈りしているの。神さまはゆり子ちゃんを助けてくださるわ」 「ありがとう。でも、でも、今すぐほしいわ。悪くなるばかりだもの」
「ごめん。こんな話はやめましょう。楽しくしなくちゃ、ふう子ちゃんといっしょだもの」と明るい声になりました。 二時間くらい、二人はかわるがわる本を読み合ったり、うのをしたり、最後はビーズで指輪を作りました。 消えた雨靴 ゆり子とさよならの握手をして玄関まで来ると、どうしたことでしょう、ふう子の雨靴がありません。今日、初めてはいた、おばあちゃんからのプレゼント、マリンブルーの雨靴です。レインコートと傘はそのままでしたが靴だけがないのです。
ゆり子ママがふう子の家に電話をしてくれたので、ママが古いほうの雨靴を持って迎えに来ました。 「すみません、わけがわかりません。きっと、見つけます。なかったら弁償しますから今日はゆるしてください」ゆり子ママは泣きそうな顔で何度も何度もあやまりました。
消えた傘 次の土曜日、また雨でした。 ふう子はちょっときつくなった古い黄色い雨靴をはいて出かけました。傘はマリンブルー、レインコートはパステルピンク、とっても変な色の組み合わせなので、気分がよくありません。なくなった雨靴がちらちらと目に浮かんで、なみだがでそうになりました。手に持っている袋からおやつのバナナケーキのにおいがしてきたので、少し心が軽くなりました。 二人はいつものようになかよく時間の経つのも忘れるほどよく遊びました。
玄関まできて、ふう子とゆり子ママはいっしょに大声で叫びました。先週は雨靴で今度は傘です。ないのです。ふう子は恐ろしくなってがたがたと震えました。(つづく)
Category : 創作童話
鍵屋の息子ルルロエルサレムでいちばん評判のいい鍵屋はルルロの父さんです。 「今日はどこのお屋敷の鍵を作るの?でも、どうしてこんなに早いの」 「うーん」 父さんは黙ったまま忙しそうに手を動かしています。いつもの父さんらしくありません。荒い息をしています。 「父さん、どうしたの。それ、鍵じゃないでしょう」 「おお、ルルロ、おまえにもわかるか」 父さんはようやく顔を上げました。 「釘を作ろうとしているんだよ」 「えっ、どうして」 父さんは困った顔をしました。 「ユダヤの人なら断るけど、総督さまだ。聞かないわけにはいかないんだ」 父さんは苦しそうでした。ルルロは涙が出そうになりました。 「もうじき取りに来る。手のひらの長さくらいのを十本作るんだ」 父さんは鉄のかたまりを溶かしながら、ハンマーでたたき続けました。でも、どうしたことでしょう。みんな鍵の形になってしまいます。 父さんのひたいから汗がふきだしています。 ルルロは胸がドキドキしてきました。 台の上にはできたばかりのりっぱな鍵が並びました。 「鍵屋、できたかな。いそいでいるんだ」 「それが……」 父さんは先が言えません。声が出ないのです。ルルロは恐ろしくて足がガタガタふるえました。 「おお、さすがだ。すばらしい釘ではないか。よくやったぞ」 ルルロはおどろいて台の上を見ました。たしかに釘ではありませんか。 「おお、神さまー」 父さんは低い声で叫びました。
「そーら、これが代金だ。ほうびもたっぷり入ってるぞ」 とぴかぴかのカイザル金貨を放りました。 「急な裁判があって、もうひとり十字架にかけることになった。釘がたりなくて困っていたのだ。よかった、よかった。これで死刑ができるぞ」 兵士たちはまた大きな足音を立てて出て行きました。 「神様が助けてくださった。神様がわしらを助けてくださったのだ」 「でも、父さん、あの釘で十字架にかかる人がいるんだよ。いやだよー。だれが死刑になるか、見てくる」 ルルロは外へ飛び出しました。 「十字架だ、ナザレのイエスがかけられるぞ」 ――そうか、ナザレのイエスという人かーー ――ルルロ、あなたは天国の戸を開ける鍵になりなさいーー ゴルゴタの方から声が聞こえてきました。 空に金色の鍵の束がゆらゆらと光って、澄んだ音が響いてきました。 ルルロは丘に向かって走り出しました。(おわり)
Category : 創作童話
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