calendar

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>

profile

selected entries

categories

archives

recommend

links

search this site.

sponsored links

others

mobile

qrcode

powered

みんなのブログポータル JUGEM

聖書の緑風

『人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる』
神のことばである聖書に教えられたことや感じたことを綴っていきます。
聖書には緑陰を吹きぬける爽風のように、いのちと慰めと癒し、励ましと赦しと平安が満ち満ちているからです。
  • 2011.03.21 Monday - 08:34

ふう子とゆり子の物語 第三話 観覧車に乗る その2

 

ママとお出かけ ふう子とふう子ママ

 

 その出来事を、ふう子はママに言いませんでした。家に帰る途中でそこまでは決心したのです。でも、何日たってもゆり子に会いたくない気持は消えませんでした。

土曜日が来て、ママがおやつバッグを用意したとき、話し始めたのでした。

「そんなことがあったの。悲しかったでしょう。心が痛かったわね。でも、今日まで我慢できて、えらかったわ。話してくれて、ママはうれしいわ」

ふう子ママはそう言うとふう子の顔をのぞき込み、それからにこっと笑いました。

「……」

 ふっと、心が軽くなり、明るい風に包まれたような気がしました。

 

「行きたくないのは当然よ。ママだったら迷わず行かない!そうだわ、今日はママとお出かけしましょ。このおやつバッグ持って、海の公園に行きましょう。ふう子の好きな観覧車に乗りましょう!」

 ふう子ママは楽しそうに言うと、ふう子の肩をぽんぽんと叩き、頭をぐるぐるっと撫でました。

「支度してくるわ」

ママは風のように行ってしまいました。

 ふう子はぼんやりしています。心は軽くなったけど、ママのようにうきうきとまではいきません。

「ママって、変だわ。ついていけないって感じ…」

 相変わらずゆり子の家に行く気はしないのですが、しょんぼりとベッドに横になっているゆり子が目の前に見えるようでした。

 


ママとお出かけ ゆり子とゆり子ママ

 

 ゆり子もゆり子ママもじっと耳を澄ましています。玄関のチャイムが鳴るのを待っているのです。

「ママは、ふう子ちゃんは来ないと思う」

「そうかしら、そうかもしれない…でも、でも、ふう子ちゃんのことだから」

「いいえ、いくら優しいふう子ちゃんでも、来られないでしょうね。帰れっていったのはあなたなのよ」

「あの時は、気持が押さえきれなかったの」

「それでも、言っていいことと悪いことがあります」

そうです、二人はこの一週間ずっと同じことを言い合っているのです。

「ふう子ちゃんが来なかったらどうするの」

「……」

「あなたにできることがひとつだけあるわ」

「謝まることでしょう」

「そうです。それだけよ。そうだわ、これからふう子ちゃんのお家に行きましょう」

「えっ、ふう子ちゃんのお家に?」

「そう、それしかないでしょう」

ママは支度をしますといって、風のように行ってしまいました。

「ママは厳しすぎる。いつものママじゃないわ。とっても変だわ。でも、ママは正しい…」

 ふう子ちゃんは今ごろどうしているだろう、他のお友だちと楽しく遊んでいるかも知れない…そう思うと、心に冷たい風が吹いてきて泣きたくなってしまいました。

 

大観覧車


 ふう子とママは海辺公園行の電車駅へ向かっていました。ふう子はママと並んで歩いていましたが、気持も体もママに引きずられているようでした。海辺公園は好きなところですし、観覧車は大好きです。でもふう子の心はゆり子の家のほうに向いてしまうのです。

「ふう子ちゃん、うれしくないの。お天気もいいし、観覧車からの眺めはすばらしいわよ」ママの声はいつもの二倍くらい明るいのです。

変だわ今日のママ、ついていけないわ。

 線路脇の小道を歩いていくと、駅の踏切の音が聞こえました。

「電車だわ、ふう子、走って。これに乗りましょう」

 ママはぐいっとふう子の手をつかみました。

「あっ!」

「あっ!」

「ゆり子ちゃんよ、ママ!」

「ふう子ちゃーん」ゆり子の声です。

 踏切の向こう側から車いすのゆり子がやってきます。

 

 ふう子はママの手を振り切って飛び跳ねながら両手を高く上げて合図しました。

踏切のこちら側と向こう側の間に電車が入ってきて停車し、また走り出しました。

 ふう子とママは乗ったかですって。もちろん乗りませんよ。

 ふう子とゆり子にとって、踏切が上がるのがどんなに長かったでしょう。

 ふう子は踏切を飛び越えて、車いすのそばに駆けよりました。

「ふう子ちゃん、ごめんなさい」ゆり子待っていたように言いました。

「ううん、もう、いいの。ウフフフ」ふう子は笑いました。

「ウフフフ」ゆり子は小さく笑いました。

「アハハハハ」ふう子がもっと大きな声で笑いました。

「アハハハハ」ゆり子も同じくらい大きな声で笑いました。

 笑って、笑って、笑いごろげて、二人の体が大きく大きく、ゆさゆさと揺れました。風ができました。大きな大きな風になりました。

 

「うわっ、海が見える」

「ほら、船も見えるわ」

 二人を乗せた観覧車がゆっくりと上昇しています。二人はピンク色の車に乗ったのです。

「ママが小さい!」

「ママが小さい!」

「真っ青な空よ」 

「真っ青な海だわ」

「ほら、飛行機がきたわ」

「うわっ、大きいっ。飛行機のお腹が見えた」

 

ゆり子の家へ


 踏切のそばでふう子ママとゆり子ママがお話ししています。

「先日はまことに申し訳ございませんでした。お電話ですませてしまって。お伺いしたかったのですが、ふう子ちゃんやゆり子のことを考えると、どうしたものかと迷いました」

「あれから、ふう子には何も言いませんでした。それとなく様子を見ていましたが、あの子、今日になって始めて話したのです」

「ふう子ちゃんは大人ですね。えらいわ。ゆり子ときたら、お恥ずかしい」

「ゆり子ちゃんの強さは大切ですわ。これからきっとお役に立つでしょう」

「ゆり子は謝ることができました。これは大きな成長です」

「そうですね。ふう子もゆるすことができました。大きな成長です」

ふう子ママとゆり子ママのお話しはつきないようです。

 

 ふう子はそっとママの洋服を引っ張りました。

「ごめんなさい。お引き留めして。お出かけのようでしたね」ふう子ママはあわてて言いました。

「ええ、お宅へ」ゆり子ママが言いました。

「まあ、私たちはお宅へ行くところだったのです。そうね、ふう子ちゃん」

「……」とっさにふう子は返事ができません。

 ママったら、全く変だわ。ついていけないわ。

 でも、ママのアイデアが一番。

「今日はね、サンドイッチがあるの、それと、バナナケーキ」

ふう子はバスケットを持ち上げてみせました。

「ねえ、ふう子ちゃん、さっきの観覧車のお話しましょうよ」

「楽しかったわねー」

 二人はまたアハハハハと笑いころげました。

「そうそう、お二人にお話ししなきゃ。今日、主人が病院に行って、新しいお薬の説明を聞いてきます。次の診察の時、いただけるかも知れません」

ゆり子ママは目を輝かせて言いました。

「わたしに椅子を押させて。ゆり子ちゃん、いいわね」

 ふう子はハンドルを握ると力を込めて、そっとそっと押し始めました。(おわり)

 


 ふう子とゆり子は、これからも神さまと家族の愛の中で成長していくことでしょう。病気や心の葛藤をどのように乗りこえていくのでしょうか。とくに、さらに美しい友情で結ばれますように祈りつつ、神さまにゆだねて、筆を擱きます。

 

              

Category : 創作童話

  • 2011.03.09 Wednesday - 09:21

ふう子とゆり子の物語 第三話 観覧車に乗る その1  

    

会いたくない

 

 ふう子は土曜日が近づいてきてもうれしい気持になれません。それどころか暗く狭いところへ沈んでいくような気がします。

会いたくないのです、ゆり子に。こんなことは初めてでした。

「ママ、わたし、もうゆり子ちゃんのお家にはいかないわ」

「どうしたの、とつぜんに」ふう子ママは驚いてしまいました。

「行きたくないの、会いたくないの…」ふう子は悲しい顔で言いました。

「まあ…」ゆり子の顔を見たママはそれ以上言葉が出ませんでした。

ふう子の目からぽろっと大粒の涙がこぼれました。

 

 ゆり子が病気になって学校へ行けなくなってからというもの、ふう子はほとんど毎週欠かさずに土曜日が来るとゆり子の家に行っていたのです。

理由は、ゆり子が好きだったからです。大好きなゆり子が重い病気になったことが悲しくてたまりませんでした。自由に外へ出られないゆり子が気の毒でなりませんでした。

 なんとかしてゆり子ちゃんを助けて上げたい。

ふう子ははち切れそうな愛を抱えて、ゆり子を訪ねました。ゆり子はうれしくてうれしくてたまりません。ゆり子ママもありがたくてありがたくてお礼の言いようがないほどでした。

 

 ふう子とゆり子の間には熱い友情があるのです。健康だとか病気だとかは全く関係がありませんでした。ふう子はゆり子が病気になるずっと前から大好きでしたし、ゆり子のほうももちろんそうでした。

二人の性格をみると、ふう子はわりにおとなしく、ゆり子は好き嫌いがはっきりして、活発でした。いつでも先に言ったりやり出すのはゆり子で、ふう子はついていくほうでした。でも、ふう子がお姉さんで、ゆり子は甘えん坊の妹のようでした。

病気になったゆり子は、気持の上がり下がりが大きくなりました。だんだんと手や足や体が不自由になるにつれて、ますますそうなっていきました。

 


悲しいこと

 

 先週の土曜日のことでした。ふう子はいつものようにお昼ご飯を済ませると、ママの作ってくれたおやつバッグを持って出かけていきました。おやつはレモンクッキーです。

 その日は前からの約束で、近ごろ二人が夢中になっているアイロンビーズをすることになっていました。材料はゆり子ママが準備してくれます。プラスチックでできた、ちょうどストローを輪切りにしたようなビーズを型の上に並べていきます。型は鳥や花やちょうちょなど様々な種類があり、ビーズにはあらゆる色があります。思い思いに配色をして並べ終わったら最後に熱いアイロンを当て、型から外すとでき上がりです。

 

 二人とも夢中になってビーズを並べていきました。初めはおしゃべりをしていましたが、だんだん熱が入ってきて、話もしなくなりました。

ビーズを型の上に並べるだけの簡単なことなのですが、くり返していると疲れてきます。時々並べたものが転がってやり直したり、配色を考えていると気持も疲れてきます。

 とつぜん、がさっと音がして、ビーズが飛び散りました。

「アイロンビーズなんか大嫌い!」ゆり子が高い声で叫びました。

ゆり子は型をひっくり返し、ビーズの入った箱を放り投げたのです。

ふう子はこんなに驚いたことはありませんでした。

ゆり子は金切り声で泣き出しました。

「ふう子ちゃんのいじわる!こまかいことがわたしにはできないってこと知ってるでしょう。早くビーズをつまめないし、きれいに並べられない!。わたしが一つ作るうちにあなたは三つも作ったわ。もう、いや!」

「……」

 

 ゆり子ママが飛び込んできました。

「どうしたの?これはいったい、なあに」

部屋中に散らばったビーズをみて、ゆり子ママもびっくり仰天です。

「ママもひどいわ!わたしにはできないのよ。それなのに…」

「いいえ、いつも上手に作っているわ。楽しいから今度もしたいって言ったのはあなたですよっ。ゆり子」

ゆり子ママはきつい口調で言いました。

「ふう子ちゃんに失礼でしょう。せっかく遊びに来てくださっているのよ」

「そうね、わたしをかわいそうに思って、来てくれているのね。もういいわ、ふう子ちゃん、帰って!もう来ないで!ほかの人と遊んで」

「なんてことを…ゆり子、わがままがすぎます。謝りなさい!」

 ゆり子ママの声が大きくなりました。

 
 ふう子は悲しくて胸が張り裂けそうでした。どうしていいか分かりません。

 涙があふれ出ました。

 帰ろう、お家に帰りたい。

 泣き顔のままふう子は表に飛び出しました。 
「ふう子ちゃん、待ってーごめんなさーい」

 ゆり子ママのおろおろ声が聞こえました。もっともっと大きなゆり子の泣き声も聞こえました。(つづく)

 

 
Category : 創作童話

  • 2011.02.22 Tuesday - 10:19

ふう子とゆり子の物語 一人で行きたい その2(おわり)

菜の花畑で


 ゆり子はベッドの上でじっと考え込んでいました。行ってみたいところが頭から離れません。

菜の花畑、海岸、空港とくり返しくり返し言ってみました。すると気持が高まって体中が熱くなりました。

「わたし、一人で行ってみる。行けそうだわ。行けるわ。一人がいいの。一人でいきたいの」

 叫ぶように言うと、起きあがって着替えを始めました。真っ白な半コートの下に同じ白の綿シャツを着込み、ピンクの綿パンをはきました。パパが海外出張で買ってきてくれたポシェットを提げました。色はもちろんピンク。まだ一度も使っていないのです。そっと部屋を出ました。

「あっ、ママだわ。見つからないようにしなきゃ」

 ゆり子は大急ぎで外へ出るとドアーを閉めました。大きな音がしました。

「見つかるところだったわ、あぶない、あぶない」

ゆり子が玄関の外で靴の紐を結んでいると、ドアーがいきおいよく開きました。

「痛い!ママったら、ひどいわ」ゆり子はドアーにかかとをぶつけてしまいました。

「あーら。いいお天気。どれ、支度してお買い物に行きましょう。今日はゆり子ちゃんの好きないちごのババロアを作りましょう」

ゆり子ママは目の前にいるゆり子がまるで見えないように、こんどはばたんとドアーを閉めて家の中へ入ってしまいました。

 

 特急列車に乗っても二時間以上かかる菜の花畑の真ん中を、ゆり子はさっさと歩いています。

「わあ、きれい!いいにおい!優しい風!空が大きいわ!」

 ふと、おおぜいの子どもたちがいるのに気がつきました。なんと、ゆり子と、ふう子のクラスの友だちです。

「いやよ、会いたくない!」

 ゆり子は大急ぎで走り出しました。みんなから離れたかったのです。

「あっ!」

 ゆり子の足元がぐらぐら揺れて、そのまま倒れてしまいました。

「痛いっ!」大声で叫びました。

 ゆり子のすぐそばをクラスのみんなが歩いて行きます。先生の後ろについてどんどん歩いていきます。

「たすけてー」ゆり子はまた叫びました。

 でも、だれも気がつきません。声も聞こえないようです。

 ふう子がみえました。

「ふう子ちゃんだ、ふう子ちゃん、起こして、わたし一人ではできないの」

 ふう子はお友だちと笑いながら近づいてくると、ゆり子の手や足を踏んづけてそのまま通り過ぎていきました。

 クラスのみんなはそのまま小さくなってしまいました。

ゆり子はたった一人、広い広い菜の花畑の中に取り残されてしまいました。

 強い風が吹いてきました。青い空に灰色の大きな雲が流れてきました。

「こわいー、みんなの意地悪っ!ふう子ちゃんてひどい人―」

 

海辺で


 ゆり子は砂浜を走っていました。春の海は穏やかです。薄曇りの空から柔らかな日差しが降り注いで、波がキラキラ光っています。おおぜいの人たちが波打ち際で遊んでいます。子どもたちの笑い声や叫び声が切れ目なく聞こえてきます。

「わあ、いい気持ち―海はいいなあー風のにおいも好きだわ」

 ゆり子は両手を広げて深呼吸しました。胸一杯に潮のにおいが広がっていきます。

「あら、あんなところにパパとママとお兄ちゃんがいるわ。おばあちゃんもいるわ。やだわ。どうしてみんないるの、わたし、一人がいいの」

そのとき、急に大きな波がきて、ゆり子の足元にからみつきました。波しぶきがかかって膝までびしょぬれです。

「あっ!」

 ゆり子の体はバランスをなくしてぬれた砂の上にしりもちをついてしまいました。

「痛い、助けて、パパー、ママー、お兄ちゃーん」

 みんなは波を避けてゆり子のそばを駆け抜けていきました。

「待ってーわたしよー、ゆり子よーどうして行っちゃうのー ひどいわ、ひどいわ」

 すぐ近くからパパとママとお兄ちゃん、おばあちゃんの大笑いが聞こえました。

「もう少しで波をかぶるところだったわ。アハハハ」

「波って早いんだね、負けるところだった、アッハハハ」

 ゆり子は寂しくて悲しくて、ぽろぽろ涙を流して泣きました。

「もう空港へは行きたくない…一人では行きたくない」

 ゆり子は大きな声でわあわあと泣きました。

 


ゆり子、空港へ行く


 ゆり子は空港にいます。大きなガラス過しに、着陸体勢に入った飛行機が滑走路に入ってくるのが見えます。一機が降りたつと、数分もしないうちに次の飛行機が降りてきます。上を見上げると、上空にはすでに次の機も見えます。

ゆり子はつまらなそうな顔をしています。来たかった空港にいるのに、見たかった着陸が目の前にあるのに、外を見ようともしないでじっとうつむいています。たくさんの人の声がざわざあと波の音のように響いてきます。

「あら、ゆり子ちゃん、こんなところにいたの」

 明るい声が弾けました。ふう子です。そばにはふう子ママもいます。

「ゆり子ちゃん、大好きな空港に来られてよかったわね」ふう子ママがにこにこと笑いかけました。

「ゆり子ママはどちら?」

「こんにちは。思いがけないところでお会いしましたね」

 ゆり子ママがジュースのカップを持って現れました。

「パパの出張を見送りにきましたの。ゆり子が空港に行きたい、行きたいってずっと言ってましたので。主人はもうゲートに入りました」

「まあ、そうですか。私たちはお友だちを見送りにきました。もう帰るところです」

 ママたちがお話しをしています。

「ねえ、ママ、いっしょに帰りましょうよ。できたら飛行機が飛び立つのを見たいの。ゆり子ちゃんもそうよね」

ふう子はゆり子のそばにぴたっと坐ると、手を取りました。とってもあたたかい手でした。ゆり子の心がふわっと軽くなり、雲が晴れて光が差してくるようでした。

「さあ、ゆり子ちゃん、行きましょう。ママたちはエスカレーター。私たちは    階段をかけ上るから。競争よ!」ふう子がはしゃいだ声で叫びました。

 


こんどこそ


 ゆり子ママがいちごのババロアと紅茶を持って入ってきました。

「ゆり子ちゃん、自慢じゃないけど、このババロア、とってもよくできたと思うの」

「ママ、お話し聞いて」

「なあに」

「わたし、行きたいところがあるって言ったでしょう。覚えてる」

「ええ、覚えてますよ」

一人で行きたいって叫んだわね、ママは、それは言いませんでした。

「行きたいの。ますます行きたいの」

「そう…、でも…」

 ママは困ってしまいました。なんと答えたらいいのでしょう。

「ママ、でもね、一人で行くのはやめにしたわ」

「えっ、どうして?」

「ママとふう子ちゃんとふう子ママと、お兄ちゃんと、できればパパとおばちゃんもいっしょに」

「まあ、おおぜいね」

「ママ、一人って寂しいことね。病気がなおっても、みんなといっしょに行くわ」

 ママはほっとしました。でもまたちょっと心配です。一人でも生きる強い人になってもらいたいとも思うのです。

 

 電話が鳴って、ママは飛んでいきました。

「パパですか。お医者さまからですか。ええ、ええ、お薬のこと、もう少しで許可になりそうですって。ほんとうなのですね」

そう、きっと、こんどこそ、だいじょうぶね。わたし、信じるわ。そのときまで待ってるわ。

 この春は、みんなで菜の花畑や海岸や空港へ行きたいわ。
 みんなで。

 ゆり子はババロアを大きくすくって食べはじめました。(おわり)

 

 

 

 

 

 
Category : 創作童話

  • 2011.02.13 Sunday - 09:12

ふう子とゆり子の物語 第二話 一人で行きたい その1             

ゆり子のお薬

 
 ゆり子のお医者さまから、新しいお薬ができたと知らせがありました。ゆり子ママもパパも、親友のふう子もふう子ママもどんなにうれしかったでしょう。みんな、自分のこと以上にうれしかったのです。だって、ゆり子を愛しているからです。

 「わたし、歩けるようになるのね。学校へも行けるのね。ふう子ちゃんと外で遊べるのね」ゆり子は今すぐにでもそうなるように思っています。

 「うん、きっとそうなるよ」パパは大きくうなずきました。

 「ゆり子ちゃん、もうすぐ楽しい日が来るわ」ママも力を込めて言いました。

 お薬を取りに来てくださいって、病院から知らせがくるのを、みんな今日か、今日かと待っていました。

 ふう子も気になってしかたがありません。ふう子ママも落ちつきません。

 「ママ、まだお薬が来ないんですって」

「どうなってるのかしら、あれからずいぶん日が経ってるでしょう」

 

ふう子がいつものように、土曜日の午後にゆり子の家に遊びに行ったときでした。ゆり子もゆり子ママもしょんぼりしているのです。

「お医者さまのうそつき!大人ってみんなうそつきだわ!大嫌い、みんな、みんな、大嫌い!」ふう子の顔をみると、ゆり子は大声でわめき、わあっと泣きだしました。

「ふう子ちゃん、ごめんなさいね。お薬のことなの。ゆり子が怒るのも当たり前だわ。わたしも悲しくて、悔しくてたまらないの」ゆり子ママも涙声です。


 お医者さんは言ったそうです。

「薬はできたのだけど、使えるようになるためにはお役所の許可が必要で、それに時間がかかっているのです。お役所では、ほんとうに安全で効き目があるかどうか、もう一度くわしく検査をすることになっています。だから、待っていてください」

ゆり子にはそれが納得できないのです。待てないのです。

「くわしく検査して、もしだめだったらどうなるの。お薬はいただけないでしょう。そしたら、わたしの病気はこのまま治らないのよ」

ふう子は困ってしまいました。なんと言ったらいいのでしょう。

ほんとうは言いたいのです。

ゆり子ちゃん、もう少し待ってみましょうよ。お薬はきっと検査に合格するわ。だから、だから、希望を持って待ってみましょうよ。

でも、言えないのです。今日のゆり子は荒れています。どんなことでも悪いように考えて、気持がどんどん暗いほうへ沈んでいくようです。

ふう子はもうひとつ言いたいのです。

わたし、お祈りしてるわ。ママもよ。神さまはいちばんよいことをくださるから、静かに待っていましょうよ。


これも言えませんでした。

 
一人で行きたい


 涙をふいてしばらくすると、ゆり子はいつもの声に戻って言いました。

「私ね、病気が治ったら行きたいところがあるの。遠足で行った広い菜の花畑を歩きたい。それから、前に家族みんなで行ったあの海に行きたいの。はだしで砂浜を走りたいわ。もうひとつはね、ゆり子、よくばりかな、空港へ行きたい!。飛行機が飛び立つところ、着陸するところを見たい。ほんとうは乗りたいのだけど。うふふ…」最後は笑い声に変わりました。

「そう、いいわね。近いうちにみんなで行きましょうよ。春だものね」

ほっとしたのかママも元気になり、笑顔で言いました。


 ところが、ゆり子はきつい顔をして言うのです。

「わたし、一人で行きたいの。一人でしてみたいの。いつも、いつも、みんなのお世話になって…、ばかりでしょう。だから、自分一人でしたいの」

「そう…一人ねえ…」ゆり子ママは顔をしかめて力のない返事をしました。

ふう子はちょっと寂しい気持になりました。

 

「ママ、ゆり子ちゃんったら、自分一人で、たった一人で行きたいところがあるんですって」

家に帰ると、ふう子はママに今日のことをお話ししました。

「そんなことをゆり子ちゃんは考えてるのね。そう、りっぱだわ。ゆり子ちゃんは病気と戦って、ふう子のできない勉強をしてるわ」

「ふーん。わたしは一人ではどこにも行きたくない。こわいもの。みんなといっしょがいいわ」

「そうね、それも大切なこと」

「ママの言ってること、わからないー」

 ふう子ママは首をすくめ、目を細くして笑いました。(つづく)

 
Category : 創作童話

  • 2011.02.03 Thursday - 08:50

ふう子とゆり子の物語 第一話 消えた雨靴 その2

 

(だいぶ日が経ってしまいましたが、前回のつづきです)

二人で外へ


 一週間いやな気分でした。ママに、もう行きたくないと言ってしまいました。

しかも、またまた土曜日は雨なのです。

「こんどはきっとレインコートがなくなるわ。そんな気がするの」

ママは困ったようすでしたが、ちょっときびしい顔をして言いました。

「ふう子、ゆり子ちゃんが好きよね。靴や傘やコートとどっちが大事なのかしら…」

ふう子はじっと考えました。靴…、傘…、コート…、病気のゆり子が、わるがわる目の前に浮かびました。

「わたし、行ってきます。今日のおやつは?アップルパイでしょ?」

「当たりっ!あなたたちがいちばんすきなものよ」

「わーい、うれしいー、ありがとう」

 

 ふう子は玄関で脱いだコートが気になりました。いっそ持ってゆり子のお部屋に行きたいくらいでした。でも、びしょびしょですから、そうもいきません。

ふう子ママがハンガーにかけるのを、振り返ってじっと見てしまいました。

「今日はちゃんと気をつけますから。ごめんなさい…」ゆり子ママがすまなそうに言いました。

廊下の奥から大きな声がしました。ゆり子ちゃんです。

「ふう子ちゃーん、早く、早く、わたしを見て!」

いつもと違ってとっても元気な声がします。ゆり子ちゃん?と不思議なくらいに。急いでドアーを開けました!

 

 ゆり子ちゃんがあのなくなった雨靴と傘と玄関にあるはずのレインコートを着て、ニコニコと歩いてくるのです。

「あっ、あのーっ、それって!?」

うそのようです。ゆり子だけど、ゆり子でないようにも思えました。

それに……レインコートはぬれていません。

「わたし、すっかり元気になったの。さあ、雨だけど、お散歩に行きましょう」

ゆり子はふう子の手をしっかり握りました。動かないはずの左手ものばして

力を込めるのです。


 二人は手をつないで外へ出て行きました。もちろん片方の手は傘の柄を握っています。あらら、ふう子もゆり子とまったく同じ靴と、傘と、コート姿です。

二人は、以前によく行った公園や図書館や、それに学校に行き、駅前のお花屋さんにも寄りました。ずっとしゃべり続け、笑いあいました。

長い時間が経ったようで、ふう子は心配になりました。

「ねえ、ゆり子ちゃん、疲れない?」

「ぜーんぜん、楽しかったわ。でも、そろそろ帰りましょうか」

突然、泣き声が聞こえました。

 

 

犯人がいた

 
  「ごめんなさい、私が犯人です、私があなたの雨靴や傘を隠したのです、ゆるしてください、ゆるしてー」

ゆり子のお部屋の、ゆり子のベッドのそばに、ゆり子ママが靴と傘を抱えたまま泣き伏しています。ベッドには、ゆり子が青白い顔で横になっています。

いつもの、病気のゆり子です。元気になったゆり子はどこへ行ったのでしょう。あれはだれだったのでしょう。

「ふう子ちゃん、ゆり子、お母さんをゆるしてー」

「お母さん、どうしてそんなことをしたの…」

「あなたに、はかせたくて、夢中で隠してしまったの。傘も…。

気持ちを抑えきれなかったの、ごめんなさいー」

「お母さんにそんなことをさせたのは、わたしなのね。ふう子ちゃん、お母さんをゆるして」


 ふう子は目の前がボーとして、なにも考えられません。いいえ、一つのことだけしか考えられません。ふう子はたずねてみました。

「ゆり子ちゃん、あなた、ずっとここにいたの?」

「ゆり子がどこへいけるでしょう。二人ともずっとここでしたよ」ゆり子ママがとんがった声で言いました。

「そうよ。でも、そういえば、外を歩いた夢を見たわ。あなたといっしょに。楽しかったわ」

「私はほんとうにゆり子ちゃんとお出かけしたのよ」ふう子は首を振っていいました。

「そんなことはありません」ゆり子ママがまたキッして叫びました。

 


ふう子ママのプレゼント


 玄関のチャイムが鳴って、ふう子ママ飛び込んできました。

 「まあ、ゆり子ママもこちらでしたか。私ね、じっと考えていたら、全部わかったのです。雨靴と傘のことです」

 「申し訳ございません、こんな恥ずかしいことをしてしまって」

 ゆり子ママは床に頭をこすりつけるようにしてお詫びをしました。

 「ゆり子ママ、あなたのお気持ちとってもよくわかります。一度ゆっくりお話ししたいと思っていましたよ」

 ふう子ママは優しい声で言いました。

ふう子はお母さんが大きな袋を持っているのに気がつきました。

 「それ、なあに」

 「さあ、なんでしょう。当ててみて」

 「わかったわ、ゆり子ちゃんにあげる雨靴と傘と、コートでしょう」

 「えっ、うちのゆり子にですか」

 「わたしに?だって、だって、わたし、歩けないのに…」

 「歩けますよ、さっき歩いていたでしょう」

 ふう子ママがしっかりした声で言いました。

「えっ、お母さん、どうして知ってるの、見てたの?」

 「見てましたよ。そう、神さまが見せてくださったと言ったほうがいいでしょう。お祈りをしていたら、お花屋さんの前にいるあなたたちの姿が浮かんできたの。神さまが、いまにこうなるって教えてくださったと信じたの。

ゆり子ちゃん、あなた、きっと、きっと、よくなりますよ。

その時は、これ使ってくださいね」

 

 玄関の方から電話の音が聞こえてきました。ゆり子ママが急いで出ていきました。まもなく、びっくりするような声が聞こえました。

 「パパ!なんですって。すばらしいお薬ができたんですって。ほんとうですか、ほんとうですか…」

 ゆり子ママの声は涙で途切れてしまいました。

 ふう子はゆり子を抱きしめました。

その二人を、ふう子ママが大きく両腕を広げて、ぎゅっと抱きしめました。

                            おわり

 
ふう子とゆり子の物語は、あと2篇あります。


 

 

 

 

 

Category : 創作童話

  • 2011.01.24 Monday - 17:42

ふう子とゆり子の物語 第一話 消えた雨靴 その1

ゆり子のこと

ふう子は土曜日になると、きまってゆり子の家に行きます。ゆり子が病気になって学校へ来られなくなってからずっとそうしています。

「ゆり子さんはとても難しい病気になりました。いまのところだれにも治すことができません。手術もできません、お薬もありません」


先生がクラスのみんなにそう言ったとき、ふう子の胸は大きくドキンと鳴り、涙があふれてきました。家も近かったので、幼稚園のころから仲よしでした。学校もいっしょに行って、いっしょに帰っていました。


ゆり子の欠席がめだってきたころから、先生は連絡や届け物をふう子にたのみました。ふう子はそれがちょっと得意でした。家に着くとランドセルを玄関においたまま、すぐにゆり子の家に急ぎました。

「ゆり子ちゃんとママによろしくって伝えてね」

ふう子ママはそのたびにお菓子や果物を持たせてくれました。


ゆり子の登校する日が少なくなり、とうとう一日も来られなくなりました。外へ出るのは病院へ行く時だけで、あとは家にいるのでした。もうひとりでは歩けませんでした。

先生から連絡を頼まれることもなくなりました。でも、ふう子は土曜日にはかならず会いに行きました。

 

ゆり子に会いに

 

その日は朝から大雨が降っていました。

「おばあちゃんからいただいた新しい雨靴をはきなさいね」

「もう、はいてもいいの、うれしいっ!」

色は大好きなマリンブルーです。傘は新しくはないけれど、これもマリンブルー、レインコートはパステルピンクです。ゆり子に会えるのと、新しい雨靴をはいたのとで、いつもよりずっといい気分です。そして、今日のおみやげはお母さんの作ったスイートポテト!


チャイムを鳴らすと、ゆり子ママが、待ってましたよ、と言って大きくドアーを開けてくれました。

「まあ、すてきな雨靴ね、かわいいわ、とってもよく似合うわよ」

ゆり子ママがほめてくれました。でも、それからちょっと目を伏せると、

「ゆり子にもはかせて上げたいわ…」と沈んだ声で言いました。

「……」
ふう子は悪いことをしたようで、何も言えませんでした。

「ごめんなさい、気にしないでね。さあ、お部屋に行ってちょうだい」

ゆり子ママはいつもの笑顔に戻っていました。

ゆり子はパジャマ姿でした。いつもはきとんと洋服を来ているのに、どうしたのでしょう。元気がないように見えました。

「ゆり子ちゃん、大丈夫なの」
思わず聞いてしまいました。

「左手が思うように動かないの…」

ゆり子はそう言うと、右手でパジャマの袖を引っ張って左手を隠してしまいました。

「きっと、もうすぐいいお薬ができるわよ。わたし、毎日お祈りしているの。神さまはゆり子ちゃんを助けてくださるわ」

「ありがとう。でも、でも、今すぐほしいわ。悪くなるばかりだもの」


ゆり子は強い言葉でいいましたが、すぐ、気持を取り直して

「ごめん。こんな話はやめましょう。楽しくしなくちゃ、ふう子ちゃんといっしょだもの」と明るい声になりました。

二時間くらい、二人はかわるがわる本を読み合ったり、うのをしたり、最後はビーズで指輪を作りました。

 

消えた雨靴

ゆり子とさよならの握手をして玄関まで来ると、どうしたことでしょう、ふう子の雨靴がありません。今日、初めてはいた、おばあちゃんからのプレゼント、マリンブルーの雨靴です。レインコートと傘はそのままでしたが靴だけがないのです。


ゆり子ママもびっくりして、外まで出ていって心当たりを全部探してくれましたが、どうしても見つかりません。ふう子はあまり驚いたせいか、ぼーっとしてしまいました。

ゆり子ママがふう子の家に電話をしてくれたので、ママが古いほうの雨靴を持って迎えに来ました。

「すみません、わけがわかりません。きっと、見つけます。なかったら弁償しますから今日はゆるしてください」ゆり子ママは泣きそうな顔で何度も何度もあやまりました。


それからずっと、ふう子は落ちつきませんでした。もう、ゆり子の家に行きたくないと思いました。でも、ゆり子を好きなのは変わりません。それに、ゆり子ママからは何度も電話がかかってきて、また来てくださいとお願いされました。

 

消えた傘

次の土曜日、また雨でした。

ふう子はちょっときつくなった古い黄色い雨靴をはいて出かけました。傘はマリンブルー、レインコートはパステルピンク、とっても変な色の組み合わせなので、気分がよくありません。なくなった雨靴がちらちらと目に浮かんで、なみだがでそうになりました。手に持っている袋からおやつのバナナケーキのにおいがしてきたので、少し心が軽くなりました。

二人はいつものようになかよく時間の経つのも忘れるほどよく遊びました。


「あっ、傘がない!」

玄関まできて、ふう子とゆり子ママはいっしょに大声で叫びました。先週は雨靴で今度は傘です。ないのです。ふう子は恐ろしくなってがたがたと震えました。(つづく)

 

 

 
Category : 創作童話

  • 2011.01.15 Saturday - 08:27

鍵屋の息子ルルロ

エルサレムでいちばん評判のいい鍵屋はルルロの父さんです。
父さんの鍵で戸締まりすれば決してどろぼうははいりませんし、宝の箱も開けられません。
ですから、身分の高い人やお金持ちがあらそって注文にきます。

 
ルルロは父さんが鍵を作っているのを見るのがだいすきです。いつか父さんのような鍵屋になりたいのです。

 
この日、父さんはいつもよりずっと早く仕事をはじめました。

 「今日はどこのお屋敷の鍵を作るの?でも、どうしてこんなに早いの」

 「うーん」

 父さんは黙ったまま忙しそうに手を動かしています。いつもの父さんらしくありません。荒い息をしています。

 「父さん、どうしたの。それ、鍵じゃないでしょう」

 「おお、ルルロ、おまえにもわかるか」

 父さんはようやく顔を上げました。

 「釘を作ろうとしているんだよ」

 「えっ、どうして」

 
 「今朝早く総督ピラト様のお使いがきた。鍵の注文かと思ったら、いそいで釘を作れと言うのだ」

 父さんは困った顔をしました。

 「ユダヤの人なら断るけど、総督さまだ。聞かないわけにはいかないんだ」

 父さんは苦しそうでした。ルルロは涙が出そうになりました。

 「もうじき取りに来る。手のひらの長さくらいのを十本作るんだ」

 父さんは鉄のかたまりを溶かしながら、ハンマーでたたき続けました。でも、どうしたことでしょう。みんな鍵の形になってしまいます。

 
「どうしても鍵になってしまう。どうしよう。もう、来るぞ」

 父さんのひたいから汗がふきだしています。

ルルロは胸がドキドキしてきました。

 台の上にはできたばかりのりっぱな鍵が並びました。

 
大きな足音がして二人のローマ兵が入ってきました。

「鍵屋、できたかな。いそいでいるんだ」

 「それが……」

 父さんは先が言えません。声が出ないのです。ルルロは恐ろしくて足がガタガタふるえました。

 「おお、さすがだ。すばらしい釘ではないか。よくやったぞ」

 ルルロはおどろいて台の上を見ました。たしかに釘ではありませんか。

 「おお、神さまー」

 父さんは低い声で叫びました。


兵士の一人が満足そうに腰の皮袋にしまいました。もう一人が

「そーら、これが代金だ。ほうびもたっぷり入ってるぞ」 とぴかぴかのカイザル金貨を放りました。

 「急な裁判があって、もうひとり十字架にかけることになった。釘がたりなくて困っていたのだ。よかった、よかった。これで死刑ができるぞ」 

 兵士たちはまた大きな足音を立てて出て行きました。

 
父さんはルルロをきつく抱きしめました。

 「神様が助けてくださった。神様がわしらを助けてくださったのだ」

 「でも、父さん、あの釘で十字架にかかる人がいるんだよ。いやだよー。だれが死刑になるか、見てくる」

 ルルロは外へ飛び出しました。

 
おおぜいの人々がいっせいにゴルゴタの丘に向かっていきます。

「十字架だ、ナザレのイエスがかけられるぞ」

――そうか、ナザレのイエスという人かーー

 
ルルロは、不思議な釘で打たれるイエスがとても不思議な人に思えました。かわいそうで胸が熱くなってきました。

――ルルロ、あなたは天国の戸を開ける鍵になりなさいーー

 ゴルゴタの方から声が聞こえてきました。

 空に金色の鍵の束がゆらゆらと光って、澄んだ音が響いてきました。

 ルルロは丘に向かって走り出しました。(おわり)
      

 

 

 
Category : 創作童話

  • 2010.12.31 Friday - 16:16

ミミとホホロの地球旅行 その3 おわり

 

地球旅行

 渦巻き

北風の起こしたが渦巻きが幹をゆすると、ミミは空高く舞いあがりました。ホホロもスピードを出しておいかけます。北風は南へ南へ向かっています。

 
   「あっ、あの青くて広いものはなあに、きれい!」

 「海だよ。地球は海でかこまれてるんだ」

 「あの細いみずのながれはなあに」

 「川っていうんだ。人間たちはあの水をのんでいる」

 「あそこの茶色の海みたいなところは?」

 「さばくだよ。草も木も水もないのさ」

 「まあ、こわいところもあるのね」

 

   見えたぞ 見えたぞ 青い海

   川のながれとすなの原

   空とぶ旅はたのしいな

   地球旅行はうれしいな

 

 「北風さん、もっと下のほうにいきたいわ」

 ミミはうれしくてたまりません。

 「だめだよ。地球の引力に負けたら、ついらくだよ」

 「ミミ、わがままはやめろ。生きてかえれなくなる」

 ホホロはずっとハラハラしています。

 「だって、せっかくきたんだもの」

 

ミミとホホロのゆくへ

 

北風が大声で叫びました。

 「たいへんだ、南風だ。吹きもどされてしまう。ああーーーーもうーーーだめだーーーー」

 「北風の声が遠くなり、ミミとホホロは南風のうづのなかに吸いこまれてしまいました。

 「あなたたち、どうしてこんなところまできたのです。ここでは生きていけませんよ」

 「助けてください。北風さんのところへいかせてください」

 ホホロはありったけの声で叫びました。からだから力がすーすーとぬけていきました。 

 
  「ああ、だるいわ。のどがかわく…あつくて…気がくるいそう」

 ミミが苦しそうに身をよじっています。

 「ミミ、しっかり。ぼくにつかまってごらん。少しは助けになるよ」

 「いいえ、あなたこそ苦しそう」

 南風が気の毒そうにはいいました。

 「すまないけど、わたしにはどうしてあげることもできません」

 「ホホロ、ごめんなさい、わたしが悪かった…。
  森にいればよかったのよ。
  神さまのきめてくださったことにそむいたばかりか、あなたまで苦しめてしまって」

 「ううん、ぼくがもっとしっかりしていればよかったんだ。悪いのはぼくなんだ」

 「ここで死んでしまったら、天国へは行かれない。永遠のいのちはいただけないでしょうね」

 「そうだね。ぼくたち、わるいことをしたんだから… 神さま、どうかおゆるしください、神さま」

 「悪いのはわたしです。ホホロには永遠のいのちをあたえてください」

 「神さま、ミミこそ、助けてあげてください」

 「ああ、苦しい…神さま、ごめんなさい」

 「もうだめだ、あつい、あつい」

 南風はもうそれっきりミミとホホロの声をきけませんでした。

 

 それから…

 

さびしい荒野をご夫婦が旅をしていました。砂と石ころばかりがつづいていました。持ってきた水もすっかりなくなり、このままではご夫婦もロバも倒れてしまいそうです。

 いいえ、それだけでなく、奥さんの胸にねむる赤ちゃんにもきけんがせまっていました。

 「おやっ、水の音がきこえる」

 ご主人はロバをとめると、小さな岩のうしろをのぞきこみました。

 「マリヤ、こんなところに泉があるよ。なんてふしぎだろう」

 「きっと神さまのおめぐみです。早くイエスにものませましょう」

 泉の水は雪をとかしたように、それはそれはつめたくておいしい水でした。

 「あら、こんなところに赤い葉があるわ。美しいこと」

 マリヤは泉のすみにうかんでいる一枚の葉をそっとひろいあげました。

 「イエス、みてごらんなさい」

 マリヤはしずかにねむる赤ちゃんの胸にそっと葉をかざりました。

 「まあ、この子には赤がよくにあうこと。木の葉も神さまからのおくりものにちがいありませんわ」

 

 泉はホホロで、赤ちゃんの胸をかざる赤い葉っぱがミミだってこと、おわかりですね。

 あわれみふかい神さまは、ミミとホホロを天国に連れていく前に、とってもとうといしごとをさせてくださったのです。

 これもとっくにおわかりでしょうが、このご夫婦はヨセフとマリヤ、赤ちゃんは救い主イエスさまです。二人はおそろしいヘロデ王からイエスさまを守るために、エジプトへ向かっているところでした。 

 

 

そして今…

ポインセチアは樅の木といっしょにクリスマスには欠かせない植物になりました。今では気温や日の当たる時間によって次々と赤い葉が生まれるようになりました。

 ミミとホホロのお話しはとおいとおい昔のことなのです。 (おわり)


  *この一年も『聖書の緑風』をお訪ねくださり
   ありがとうございました。2011年も、できるだけ充実した
   内容の読み物を発信したいと願っています。
   続いてご愛読くださったらこの上ない感謝です。

   皆様の上にイエス・キリスト の豊かな恵みを
   心からお祈り申し上げます。

   2010年12月31日  聖書の緑風より


 

 

 

                     

Category : 創作童話

  • 2010.12.26 Sunday - 20:15

ミミとホホロの地球旅行 その2

ミミの喜び

 

 「おまちどうさま。こんどはきみのばんだよ」

 北風の中からホホロの声がきこえてきました。いよいよ待っていた時がやってきたのです。ミミはぶるっとふるえました。うれしい気持とこわい気持がまじりあってこみ上げてきます。

 ホホロはミミの上に飛びのると、白いぼうしをさっとぬぎ、白いブーツのひざを少しまげておどけておじぎをしました。それから、銀のふえをクルクルと指のあいだでまわしてからにこっとほほえみ、口もとにあてて大きく息を吸いこみました。

銀のふえから雪の国のメロディーが流れてきました。

――神さま、わたしを美しい色にしてください。だれよりもきれいな赤にそめてくださいーー

 目をとじてお祈りをしていると、心の中がぽかぽかとしてきて、幸せな気持がいっぱいに広がっていきました。

 「そーら、すっかり赤になったよ。見てごらん」

 ミミはそーっと目をあけると、まあ、ほんとうに、ミミはすっかり赤に染まっていました。

 「ありがとう ホホロ。うれしいわ。わたしの色ってすてきかしら」

 「ああ、とってもきれいだよ。北風が吹くたびにもっとすてきになっていくよ。じゃ、またね」

 ホホロは銀のふえを吹きながら空たかく舞いあがりました。

 ミミは自分の姿をなんどもなんどもながめました。うれしい気持がますますふくらんでワクワクしてくるのでした。

 

ミミのねがい

 

 北風がいっそうつめたく、いっそうはげしく吹きつけるようになりました。ポインセチアの木にぶつかるたびに、ミミに声をかけてくれます。

 「やあ、ますます美しくなったね。まぶしいほどすてきだよ」

 「ありがとう。北風さんはいそがしそうね」

 「そうさ。なにしろ地球の北半分に冬をしらせるんだから」

 まっさきに、森のおくの湖から白鳥たちが南に向かって飛んでいきました。

 「ミミ、すてきだよ。森でいちばんきれいだよ。春までげんきでね」

 ツグミの群れもいきおいよくつばさを広げてミミの上をこえていきます。

 「まあ、ミミ、美しくなったわね。しばらくのお別れよ」

 ミミは自分の上を飛んでいく雪の子や北風や、白鳥やツグミを見ているうちに、自分も空を飛んでみたくなってきました。

 「ホホロはいいな、空を飛べて。北風はいいな、遠くへ行けて。白鳥はいいな、おおきなつばさがあって。ツグミはいいな、知らない国へ行けて」

 ミミはだんだんじっとしているのがたいくつになってきました。

 「おおさむい。こごえ死んでしまいそう。早くでかけましょう」

 最後のツグミはそういいのこすと、銀色の空へ消えていきました。

 「つばさ、つばさ、みんなつばさがあっていいな」

 ミミはますます空を飛びたいと思いました。

 

ミミのけっしん

 

 空を飛びたい、空を飛びたいと、ミミはずっとずっと考えつづけていました。

 そこへしばらくぶりでホホロがやってきました。

 「ああ、いそがしかった。少しやすませてよ」

 「ホホロ、私の話聞いてくれるかしら。わたし、空を飛んでみたいの。知らない国へ行ってみたい。北風さんにお願いしてみようと思ってるの」

 ホホロはびっくりしてふえを落しそうになりました。

 「な、なんだって。きみはとんでもないことを考えるんだね。いいかい、幹からはなれたらじきに死んでしまうんだよ」

 「わかってるわ。でも、このままじっとしてはいられないのよ」

 「でも、だめ、だめ。それはむちゃというものだよ」

 そこへ、北風が通りかかりました。

 「北風さん、わたしをとおい国へ連れていって」

 「ミミの言うことをきかないでください。とめてください」

 「おい、おい、きみたち、けんかしてるのかい」

 「いいえ、ホホロが反対するんです」

 「うーん。ミミの気持もわかるなあ」

 「北風さん、そんなこと言ったら困ります。ミミは幹からはなれたら死んでしまうのですよ」

 「そうだ、そのとおりだ。それにわしだって南風の近くへ行くことはできない」

 ミミはあきらめません。

 「北風さんの行けるところまででいいわ」

 「そんなに行きたいのなら、よし、連れていこう」

 ホホロは心臓がドキドキしました。

 「まって。ミミ一人ではしんぱいだ。よし、ぼくも行く」

 「おい、おい、ホホロ。きみは雪の子だよ。ミミより先にとけちゃうよ」

 「ああ、そうだった。こまった。それに神さまからいただいたしごとも残っているんだ。でも、ミミがしんぱいだ」

 ミミはホホロの苦しみがわかりません。心はすでに大空を飛んでいるのです。

 「北風さん、早く行きましょう」

 その時でした。幹の下のほうからお年寄りの葉が太いこえでいいました。

 「北風よ、無責任なことをするな。神さまのお決めになったことにそむくと、とんでもないことになるぞ」

 「ごもっとも。でも、若いときはぼうけんしたいものさ」

 「北風さん、はやく」

 「よし、ぼくも行く」
                                                     (つづく)

 
Category : 創作童話

  • 2010.12.20 Monday - 20:38

ミミとホホロの地球旅行 その1

木立



雪の子ホホロ  

 森の上の空が銀色にかわりました。北風にのった雪の子たちが、銀色のふえを吹きながらいっせいに舞いおりてきたのです。すると、森じゅうの木や小鳥や動物たちがくちぐちに歌いだし、冬のしたくをはじめました。

  

  見えたぞ 見えたぞ 銀のふえ

  聞いたぞ 聞いたぞ 銀のふえ

    冬がくるぞ 冬になるぞ

 

 そうです、これから地球の北半分が冬になるのです。

 雪の子たちはまっ白な三角ぼうしをななめにかぶり、まっ白なマントをつばさのようにひろげ、まっ白なブーツをピチッとはいて、銀のふえを吹きつづけます。

 

  見えたぞ 見えたぞ 三角ぼうし

    白いマントに白ブーツ

   冬がくるぞ  冬になるぞ

 

 森の生き物たちは大いそぎで冬のしたくをするのです。もうすぐ地球の北半分が冬になるからです。

 

 生まれたばかりの雪の子ホホロは、ポインセチアの葉を赤くそめるために、葉から葉へいそがしく飛びうつっていきます。神さまからいただいたたいせつなしごとなのです。みどりの葉たちは赤い体になる日を今か今かと待っているのですから。

 えっ、ポインセチアは南国の木なのにどうして北国にあるかですって。

 それは…

 ずっとむかし、北風と南風がまだきちんと通り道を決めていなかったころのこと。ぼうけん好きな若い北風が地球のまん中まで行ったことがありました。南風とすっかりなかよしになり、スピードきょうそうをして遊んでいるうちに、ポインセチアのひと枝だをまきこんだまま帰ってきたのです。

 北風は、森のはずれのよく陽の当たるところをえらんで枝をおろしました。枯れてしまわないようにお祈りしました。

 しばらくすると根がついて、なんども冬を乗りこえて、いまではしっかりした大きな木になりました。

葉っぱのミミ

 

 ミミは春に生まれたばかりのポインセチアの葉っぱです。北国の森はもみやまつの木が多いので、やわらかくてかたちのいいミミはすっかり人気者になりました。春が過ぎて夏になると、淡いみどりが深い色になって、ミミはますます美しくなりました。

 まわりの木がほめてくれました。

 「きれいだね、ミミ」

 「かわいいよ、ミミ」

 こんな声も聞こえました。

 「冬になるともっときれいになるよ。みどりが赤にかわるんだよ」

 ミミはびっくりしました。

 「赤ですって。わたしが」

 「そうさ。雪の子がそうしてくれるのさ」

 「雪の子?」

 「ああ、そうだよ。まっておいで」

 ミミはうれしくなりました。冬が待ち遠しくてたまりません。

 

 ついに北風が吹きつけるようになりました。厳しい寒さにミミは身をすくめました。体がちぢんでいくようです。

 「ほうら、雪の子が降りてきたぞ」

 「雪の子だ、雪の子がやってきた」

 

 ホホロはミミのいるポインセチアに飛びおりてきました。一枚の葉の上で、銀のふえを吹きながら、白いブーツのつま先でクルリ、クルクルと踊りだすと、どうでしょう、みどりの葉がみるみる赤くなっていくのです。

 「わっ すてき。あなたが雪の子ね。わたしはミミよ。早くわたしのところに来て」

 「ぼくは雪の子ホホロ。きみはもう少しあとだよ」

 ホホロはあちらの葉っぱ、こちらの葉っぱと、次々に飛び回っています。

 「おねがい。つぎはわたしよ。ホホロ、早く」

 すると、下のほうからお年寄りの葉がふとい声でいいました。

 「そんなに急ぐことはないよ。みどりは若さのしるしさ。わたしはあんたのころがなつかしいよ」

 ――みどりは子どもの色だわ。

わたしは早く大人になりたいのーー 

ミミは赤のほうがずっとおしゃれだと思うのでした。(つづく)

 
Category : 創作童話

| 1/2PAGES | >>